DaHjaj gheD

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DaHjaj gheD 「今日の獲物」がタイトルのブログは此処にあると云う

taH pagh taHbe'

クリンゴンハムレット
今までに、シェイクスピアの『から騒ぎ』、さらに『ギルガメシュ叙事詩』、『老子 道紱經』の英語-クリンゴン語對譯版が刊行されてゐますが、その先鞭をつけたのがシェイクスピアハムレット』のクリンゴン語版です。 今よりもはるかに少ない語彙で、シェイクスピア最長の作品を、まあ良くも譯したものだと感心する一品です。
當然きっかけは映畫『スタートレック6』でのゴルコンのセリフ「クリンゴン語の原著を讀まなければ、シェイクスピアを經驗した事にはならない」を踏まえて、「原著を作っちゃえ」って發想に至ったのでせうが、一冊丸々飜譯された本はこれが初めてゞすから、『ハムレット』自體の知名度も手傳って、そのインパクトも大きかった事でせう。
そしてそれを、實際に公演してしまった人たちがをられます。

4:06〜は第三幕のTo be or not to be (taH pagh taHbe') から始まるハムレットの獨白。
6:11で mortal coil、7:40で The undiscover'd country の訳語が出てきます。 どちらもひとつのセリフの中に出てくる言葉です。
あと8:55で、恐らく日本語の「莫迦」が由來の侮蔑語 baQa' も。
有名な獨白を、「バトラフ演武をしながら」語ってゐるところがジワジワくるポイント。

 

後半の、
http://youtu.be/RF0k4qV1I1Y?t=11m31s
は第五幕p.159の四行目から。 墓掘り(molwI')の訛りはクロトマグ地方(Qotmagh Sep)の方言で表現されてゐて、b が m に、D が N になってゐます。 日本人には解りにくいかもしれませんが、b と m はどちらも上下の唇を一度付けて出す両唇音と云ふ仲間に属し、D と N も歯茎音の仲間で、轉訛が起こりうるのですね。 猶、 D と N が大文字なのは、英語の發音とは違ふ事を表すためです。 d、n は舌の先を上の齒茎に付けますが、D と N は硬口蓋に舌をそらせて發音します。
ちなみに日本語の語頭の「らりるれろ」の子音(ɺ)も歯茎音なので、「だめえ(damee)」が「らめえ(ɺamee)」になる轉訛もありえるのです(笑)

 

 

ところで、taH pagh taHbe' (To be or not to be)は映畫『スタートレック6』の劇中でもチャン將軍によって使はれてゐます。 しかし最初、オクランド博士は yIn pagh yInbe' と譯してゐました。 これは直譯すると「生きるか、死ぬか」で、有名な日本語譯に似た形になってゐたのですが、チャン將軍役のクリストファー・プラマーはこのセリフを教はった時、發音に力強さが無くクリンゴン分が足りないと苦言を呈したので、第二案として taH pagh taHbe' が生まれました。 taH は「續ける、存續する、持續する」といふ意味ですが、この譯の影響か、後に「生き殘る(=命が存續する)」といふ意味も追加されました。 個人的には、確かに音感的に迫力のある taH pagh taHbe' の誕生につながったクリストファー・プラマーの感性に快哉を叫びたいと思ひます。
またこの話題、To be or not to be をどう日本語譯するかといふ問題にも關はってきます。 「『生きるか死ぬか』は誤譯だ、『やるかやらぬか』が正しい」といふ主張もあるのですが、英語を母語に持つオクランド博士がまず「生きるか死ぬか」と譯してるのでこちらに分があると見て良いのではないでせうか。

 

 

baH pagh baHbe', DaH mu'tlheghvam vIqelnIS 撃つべきか撃たざるべきか、それが問題だ