DaHjaj gheD

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DaHjaj gheD 「今日の獲物」がタイトルのブログは此処にあると云う

qatlh Qatlh {tlh} wab?

ナワトル語(Nahuatl)と云ふ言語をご存知でせうか。 南米のメキシコの先住民族、アステカ族の言葉です。 Wikipediaによると現在でも推定百五十万人の話者がゐるらしいです。

 

クリンゴン語には英語や日本語にない特徴的な發音がいくつもあります。 ghHQStlh などです。 しかし H はドイツ語やスペイン語にありますし、S はロシア語や中國語に存在する音です。
その中で特に珍しいのが tlh の音です(アルファベット三文字で、ひとつの子音を表します)。 これは L のやうに舌先を上の齒茎に付けたまま、「舌の兩脇」と「下の左右の奧齒の内側」との間に急に息を通して破擦音を出す、なかなかに特殊な發音です。 音聲學では「無声歯茎側面破擦音」と云ひます。 地球上でもこの音を含む言語は數が限られてゐて、日本で廣く知られる、アジアや歐米の言語にはどれにも含まれてゐません。
この音は單獨で發音すると「ティ」のやうにも「キ」のやうにも聞こえる(そしてどちらでもない)音で、後ろに母音、例えば a が續くと「トゥラ」や「クラ」のやうに變化して聞こえる不思議な音です。
そしてこれが、ナワトル語の tl の發音なんですね。 クリンゴン語に似て、アルファベット二文字でひとつの子音を表してゐます。
ナワトル= Nahuatl でその名前にもこの音が含まれてゐます。 トマトの語源はナワトル語の「トマトゥル(tomatl)」に由來し、これにも tl の音が入ってゐます。 さらにアボカドも語源はナワトル語で アフアカトゥル(ahuacatl)なのだとか(意味を檢索して調べてみよう!)
スタートレックだと、TAS(まんが宇宙大作戦)にククルカンと云ふマヤの神が登場しますが、これのアステカ版が「ケツァルコアトル(Quetzalcoatl)」であり、やはり tl の音が見られますね。 同じくアステカの神である「テスカトリポカ(Tezcatlipoca)」にも含まれてゐます。
斯うして見ると、けっこう日本語化したナワトル語は澤山あるんですね。
※澤山は無い事をここにお詫びします。

 

クリンゴン人の種族名である「クリンゴン」はクリンゴン語のローマ字表記では tlhIngan となり、いきなり tlh の音があるのでこの發音が出來ないとスパイとしてクリンゴンに潜入する事すら難しいのです。
何の役にも立たないと思はれるクリンゴン語學習ですが、tlh の音が出來ると、ナワトル語の發音で苦勞しないと云ふ利點が! そして逆もまた眞なり。 ナワトル語が出來てゐればクリンゴン語學習で凄まじいアドバンテージがあるのです。

 

クリンゴン語を設定したマーク・オクランド博士の專門はネイティブ・アメリカンの言葉ださうで、その專門分野から、多くの北米人にとって耳慣れない音を異星人の言語に採用したのでせう。 これは非常に上手い方法ですが、一方で初學者にとっての大きな壁のひとつにもなってゐて惱ましいところです。 個人的にはこの音によって異文化感・異星人っぽさ感が強く醸し出されてゐると思ふので、大好きですけどね。
参考: Instagram: tlhIngan
tlhIngan Hol yIjatlh!